相続が発生したが、いつまでに何をすればいいのか分からない。
相続に関する手続きを行わなければならないが、今は忙しいのでまた今度やろうと思う。
期限があるということは知っているが、それを過ぎたらどうなるのか。
相続に直面して、このような悩みや考えを抱いている方は多いのではないでしょうか。今回の記事では、相続に関する手続きの期限やそれが過ぎたらどんな不利益があるのかご紹介します。
目次
いくつかの遺産相続手続きには期限が存在します。
相続の各種手続きには期限が存在するものがあります。
期限が過ぎてしまうと、行使することが認められている権利を失い、不利益を被ってしまいます。
例えば、本当であれば受け取ることのできる遺産も期限内に手続きを行わなかったため受け取れなくなってしまうということがあります。
そのような悲劇を防ぐためにも、期限のある相続手続きを知り、早めに解決に向けて動き出しましょう。
ここでは、時期ごとに期限が存在する相続に関する手続きのご紹介をいたします。
① 【相続発生後すぐ】遺言書の検認
相続発生後にすぐに行わなければならないことに、「遺言書の検認」があります。
検認とは、遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出して相続人などの立会いのもとで、遺言書を開封し内容を確認する手続きのことです。遺言書の偽造や改ざんの防止を目的として行われます。
公正証書遺言以外の遺言書は、この検認を受けずに勝手に開封してはなりません。
検認には、明確な期限があるわけではありません。しかし、民法には「相続の開始を知った後、遅滞なく」検認を請求しなければならないと定められています。見つけ次第直ちに家庭裁判所に検認の請求を行いましょう。
また、万が一、検認を受けずに遺言書の開封を行ったり、内容に従って遺産を分けたりした場合には5万円以下の過料が科されてしまいます。
すぐに遺産分割を行いたいからという理由で、勝手に遺言書の開封を行うことは絶対にやめましょう。
② 【3ヶ月以内】相続放棄と限定承認
3ヶ月以内に行わなければならないこととして、「相続放棄」と「限定承認」があります。
相続放棄とは、プラスの遺産もマイナスの遺産も一切引き継がないとする手続きのことです。
遺産の中に多額の負債が含まれている場合や、相続争いに巻き込まれたくないという場合に行使するケースが多いです。
一方、限定承認とは、遺産の内容を調査して、プラスの遺産の範囲内でマイナスの遺産も相続するという手続きのことです。限定承認すれば、相続したプラスの遺産よりも多いマイナスの遺産分は相続しません。
マイナスの遺産がプラスの遺産よりも多く含まれる場合や、判明していない借金が存在する場合に用いることが多いです。
この相続放棄と限定承認には、相続人が「相続があったこと(被相続人が亡くなったこと)を知った日から3ヶ月以内」に行わなければならないという期限があります。この3ヶ月間を「熟慮期間」と呼び、どちらもこの期間内に行わなければなりません。
ただし、3か月以内に相続放棄や限定承認をするかどうか判断ができない場合には、期間の経過前に家庭裁判所に熟慮期間の延長の申立をすることができます。また、遺産がないと思っていたので相続放棄も相続手続もしていなかったところ、3か月以上経過してから、被相続人の債権者から請求が来て借金があったことがわかったようなケースでは、3か月経過しても相続放棄ができる場合があります。
③ 【4ヶ月以内】準確定申告
「準確定申告」の期限が4ヶ月以内となっています。
通常、所得税の確定申告はその年の1月1日から12月31日までの所得状況を翌年の3月15日までに申告します。しかし、亡くなった人の場合それはできません。
そこで代わりに相続人が亡くなった人の代わりにする所得税の申告が「準確定申告」と呼ばれます。
この準確定申告は、相続人が「相続があったことを知った日から4ヶ月以内」に行わなければなりません。被相続人が事業を行っていた場合だけでなく、アパートやマンションを持っていて賃料収入を得ていたような場合は、準確定申告が必要なので要注意です。
④ 【10ヶ月以内】相続税の申告
遺産の金額が一定の額を超えると、相続開始日から10ヶ月以内に「相続税の申告」をしなければなりません。
この一定の額とは、平成25年より、【3000万円+(相続人の人数)×600万円】
とされています。
相続税の申告期限は、「相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」となっています。
また、相続税の納付期限もこの申告の期限と同一です。申告してから納付期限が定められるわけではありません。
10か月以内に、遺産分割協議がまとまらないというケースは多いですが、そういう場合でも相続税の申告と納付は必要となります。その場合は、法定相続分で相続したこととして、暫定的な内容で相続税の申告と納付をすることとなります。
⑤ 【1年以内】遺留分減殺請求
遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分を侵害して多く遺産を受け取っている人に対して遺留分に不足する分を請求することです。
この遺留分減殺請求は、遺留分権利者が「相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った日から1年間」に行わなければなりません。
加えて、相続の開始および減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知らなかったとしても「相続開始の時から10年間」経過すれば請求はできません。
例えば、遺言で遺留分を侵害されていることを知ったときというのは、被相続人が亡くなったことを知ったときではなく、その後に遺言の内容を知って、遺留分が侵害されていることを知ったときとなります。
逆に、生前から遺言書の内容を知っていた場合は、被相続人が死亡したときが遺留分を侵害されていることを知ったときとなります。
遺留分減殺請求は、解決に長い期間がかかると言われています。遺留分減殺請求の方法や、解決までかかる期間を「どれぐらい大変?遺留分減殺請求の方法とかかる期間や費用」で紹介しています。
相続手続きの期限が過ぎたらどんなデメリットがあるでしょうか。
ここまで、各種相続手続きの期限についてご紹介しました。では、それぞれの期限が過ぎてしまった場合、どのようなデメリットがあなたにあるのでしょうか。知ることにより、迅速に手続きを行っていただければと思います。
① 相続放棄・限定承認の期限を過ぎた場合
「相続があったことを知った日から3ヶ月以内」と決められているこの期限が過ぎてしまった場合、相続人は全ての遺産を相続しなければなりません。
期限内に手続きを行わないと、相続人は単純承認したとみなされるためです。
これは、期限が3ヶ月であったことを知っていた場合でも知らなかった場合でも同様で、全ての遺産を相続しなければなりません。
例えば、資産がほとんどなく5000万円の借金を抱えた方が亡くなったケースにおいて、相続放棄・限定承認の期限が切れてしまった場合、その借金5000万円は相続人が引き継がなければならないのです。
ただ、先ほど説明したとおり、プラスの資産もマイナスの負債もないと思っていて、相続放棄も相続手続も何もせずに3か月が経過してしまったような場合で、後から被相続人の債権者から請求が来て借金があったことがわかったようなケースでは、3か月経過しても相続放棄ができる場合があります。
② 準確定申告や相続税の申告期限を過ぎた場合
準確定申告や相続税といった税金に関する申告が期限よりも遅れた場合、「加算税」が課されます。これにはいくつか種類があります。
正当な理由なく申告期限までに申告しなかった場合に課されるのが「無申告加算税」です。場合によって異なりますが、追加納付した税金額の5%~15%分を払わなければなりません。
他にも、申告期限内に提出された申告書の金額が不足していた場合に課される「過少申告加算税」や隠ぺいや仮装がある場合に課される「重加算税」があります。
また、所得税や相続税の納付期限に納付をしなかった場合にも、追加で課税がされます。
これを「延滞税」と呼び、期限から遅れた日数に応じて年率最高14.6%をかけた金額を納めなければなりません。
税金に関わる申告や納付の期限が過ぎた場合、本来支払わなければならない税金に追加して多くの額を支払わなければならなくなってしまうので注意が必要です。
相続税の申告を10か月以内にしないと、相続税を減額できる特例措置を使えなくなってしまい損をするというデメリットもあります。
遺産分割協議がまとまっておらず遺産を手にしていなくても申告は必要なので注意しましょう。
③ 遺留分減殺請求の期限が過ぎた場合
遺留分減殺請求の期限が過ぎてしまった場合、その請求はできなくなってしまいます。
たとえどれだけ多額の遺留分が侵害されていようと、その侵害された遺留分を求める請求はできません。
例えば、子供が長男次男の相続で、父親が1億円の遺産を全て長男に相続させるという遺言を残して亡くなったとします。次男は遺留分として2500万円を請求することができます。しかし、遺言の内容を知ってから、1年間何も請求しないでいると、遺留分は全く請求できなくなってしまうのです。
1年という期間は、意外にあっという間に過ぎてしまうものです。実際、時効間際や時効が過ぎてしまってから弁護士に相談されるケースは多いです。自分に不利な遺言書の内容を知ったら、すぐに弁護士に相談し、対応を取るようにしましょう。
期限内に手続を行うことが難しいと判断した場合は?
相続放棄と限定承認は、手続の期限の延長ができます。
亡くなった人の借金が判明しても、その金額がいくらあるのか判明するのに時間がかかる場合があります。その場合、相続放棄や限定承認の期限である「相続があったことを知ってから3ヶ月以内」にどの相続方法をとるのか、判断を行うことが難しくなるかもしれません。
もし3ヶ月以内に判断できない場合、家庭裁判所に対して「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申し立てができます。これを「熟慮期間の伸長」の申立と言います。
しかし、手続きの期限の延長が認められているのは、相続放棄と限定承認のみです。
それ以外の手続きに関しては、原則として期限の延長が認められていません。手続きを行わなければならないと判明したらすぐに行うようにしてください。
全ての相続の手続を終えるには時間がかかります
相続手続では、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍を取り相続人を確定し、金融機関から預貯金の残高証明書を取ったり、名寄帳を取り寄せて所有不動産を確認したりして、遺産を確認します。負債については、債権者から請求がなければわからない場合も多いです。
相続の手続を行うのには、必要な書類を取り寄せるのに結構時間はかかるものです。
特に
・相続人の人数が多い場合
・遺産が不透明で調査を行わなければならない場合
・遺産分割方法や割合をめぐって争いが起きている場合
・特別受益や寄与分の主張がある場合
これらに該当する案件に関しては、1年以上、長いと2年ほどかかってしまうこともあります。
あなたが直面している相続がスムーズに最後まで終えられるものとは限りません。今これらに該当しないと言えども、もしかしたら途中で新たな問題が噴出してしまう可能性もあります。
できる手続きにはなるべく早く手をつけて、どんな問題に遭遇しても期限に追われることのないよう時間に余裕を持って進めましょう。
また、期限が迫っている場合には、自力で期限内に手続きを終えることが難しいです。その際には、弁護士に相談・依頼するのも一つの手です。
期限に間に合わせることにより失わずに済む財産を考えれば、弁護士に頼むことは非常に有益です。
今すぐに弁護士に頼んで間に合わせられる可能性があるのであれば、依頼をして迅速に対処してもらいましょう。
ただ、弁護士も、あまりに期限直前で依頼されても対応ができないということにもなりかねません。期限があるものについては、早めに相談し依頼することが必要となります。
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代表弁護士:高島秀行
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2018/2/11 更新 寄せられたご質問にお答えします。
当記事に対していくつか疑問が寄せられましたので、追記して紹介させていただきます。
遺産分割に期限は存在しないのか?
遺産分割そのものに期限はありません。つまり、相続発生からどれだけ時間が経とうと、遺産分割調停や遺産分割審判をおこなうことはできます。
しかし、先述の通り、相続税の申告には期限が存在します。したがって、相続税が発生するほどの遺産がある場合には、相続税の申告期限である10か月以内に遺産分割を終えることが理想です。
ただ、実際は、相続関係の戸籍を取得し、金融機関から預貯金の残高証明書や債務の有無の調査をしたりするには時間がかかります。そして、その上で、誰がその遺産をどのように取得するかを争っていると、10か月は過ぎてしまうのが普通です。
万が一、相続税申告期限までに遺産分割が終わらない場合の対策は?
仮の申告をおこなうことで対応することができます。
記事の半ばでお話ししている、「暫定的な内容で相続税の申告と納付」のことですが、これについて詳しくお話しします。
どうしても期限内に相続税の申告ができないと判断した場合には、法定相続分で相続したと仮定した仮の申告をおこなうことになります。そして、遺産分割が終了したのちに、正式な分割割合への修正をおこないます。これにより、後から優遇措置を受けられます。
ただし、この優遇措置が受けられるのは、申告後3年以内に分割された場合のみとなります。
この優遇措置が受けられる3年以内には解決できるよう早期に遺産分割手続に着手し、揉めるようであれば、弁護士に依頼した方がよいと思います。
ただ、申告後3年経っても遺産分割が終わらない場合、やむを得ない事情があるに限り、税務署所長の承認によって、期限を延長することが可能です。
このやむを得ない事情とは、
・相続や遺贈に関する訴えの提起がされている。
・相続や遺贈に関する和解、調停または審判の申し立てがされている。
・相続や遺贈に関して、遺産の分配が禁止されている。
・相続や遺贈に関して、相続の承認もしくは放棄の期間が伸長されている。
・その他、所轄の税務署長がやむを得ない事情があると認めた場合。
上記いずれかに該当するものです。
申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内に税務署に延長の申請をします。