遺産分割協議が完了したら必ず遺産分割協議書を作成しましょう、普段私はこのようにお伝えしています。
ところが、遺産分割協議書は大事な役割を持つにもかかわらず、書き方を知らないのが一般的です。相続に滅多に関わることのないみなさんが知らないのは当然です。
今回の記事では、遺産分割協議書の作成の仕方、またなぜ遺産分割協議書を作成する必要があるのかについて紹介します。
目次
遺産分割協議書の書き方(サンプル)
まずは、遺産分割協議書についてのイメージを持ってもらうためにサンプルを見てもらいましょう。以下が遺産分割協議書のサンプルです。
遺産分割協議書の作成前に準備する書類
遺産分割協議書は、遺産分割の内容を事細かに記載しなければならないため、作成において準備が必要となる書類があります。
・被相続人(亡くなった方)の生まれてから死亡するまでの戸籍謄本
・被相続人(亡くなった方)の住民票の除票か戸籍の附票
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書と実印
・遺産に不動産がある場合は、不動産登記簿謄本
・遺産に預貯金がある場合は、残高証明書
これらを準備した上で、遺産分割協議書を作成しましょう。
遺産分割協議書の作成において書くべきこと
遺産分割協議書には、以下の項目を必ず記しましょう。
① 被相続人の特定
相続の当事者である亡くなった方が誰なのか記載します。
・氏名 ・死亡(相続開始)年月日
② 相続人の特定
相続人全員分の氏名・住所を記載して相続人の特定をおこないます。ここで、相続人の中に相続放棄を行った人がいる場合ですが、相続放棄をした方は遺産に関する権限を失いますから遺産分割協議書から除かれることとなります。相続放棄をした方については、相続放棄受理証明書が必要となります。
③ 相続財産の特定
遺産分割する遺産について、各相続人が取得する遺産を特定できる程度の記載が必要です。
例えば預貯金については、残高証明書を取得して、預け入れ金融機関名・支店名・預金口座の種類・口座番号を記載した方がよいでしょう。
不動産については、遺産分割協議書により登記をすることとなりますので、登記簿謄本どおりに、土地については、所在・地番・地目・地積を、建物については、所在・家屋番号・種類・構造・床面積を記載しましょう。
④ 分割方法について
どの遺産をどの相続人が取得するか明確に記載しましょう。
⑤ 負債の扱いについて
もし被相続人に銀行からの借り入れなど負債が残っているのであれば、その負債を誰が負うことにするのかを記載します。ただし、負担割合が法定相続分と異なる場合は、銀行など債権者の同意がない場合は、当事者間では有効ですが、銀行などの債権者に対しては法定相続分に従って、負債を負うこととなります。
⑥ 新たな遺産が見つかった場合について
遺産分割協議終了後に、新たな遺産の存在が判明することもあります。その際に、改めて遺産分割協議をするのは面倒なことです。遺産分割協議書で、新たな遺産が見つかった時の対処法について記載しておきましょう。ただし、新たに見つかった遺産を特定の者が取得すると記載すると、高額な遺産が見つかった場合に不平等となり揉めることとなるので、注意しましょう。
⑦ 全相続人の署名捺印
「遺産分割協議に全員が合意した」という旨を示すためにも相続人全員の署名捺印をしましょう。印鑑は、実印を押して、印鑑証明書を添付した方がよいでしょう。これにより、遺産分割協議書で、登記や預貯金の解約ができることとなります。
遺産分割協議書を作成する上での注意
遺産分割協議書を作成する上での注意点は以下です。
・相続人の住所・署名は自筆にすべき
遺産分割協議書作成における形式や書式に特段決められたルールはありません。そのため、手書きでも印字したものでも構いません。縦書き・横書き、用紙も決まっていません。遺産分割協議書は書かなければならないことがとても多いので、パソコンでA4用紙に書くことをおすすめします。
ただし、相続人の住所や署名は、それぞれの相続人の自筆によって書きましょう。
法律上は、パソコンによる記名でも有効ですが、パソコンによる記名の場合は、後で、勝手に作成されたなどと争われてしまう可能性があります。
・押印は実印にすべき
遺産分割協議書は、実印によって押印されていなければならないという決まりは特にありません。
しかし、押印は実印によってすることをおすすめします。住所・署名を自筆にすべきとしたのと同様に、本人が承諾したということの証明をする上で、実印の方がトラブルを防げるからです。また、実印を押してあれば、法務局や金融機関に登記や預金の解約のために提出することも可能となります。
実印を押した場合は、押印が実印であることを証明するために印鑑証明書も添付しておきましょう。
・相続人の人数分作成し、全員が少なくとも一通ずつ所持すべき
遺産分割協議書を何通作成しなければならないという決まりはありません。
しかし、相続人の人数分だけ作成することをおすすめしています。それは、遺産分割協議書は、その後の相続にまつわる手続に必要となるからです。
後に詳しく紹介しますが、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどで遺産割協議書の提出が必要となります。その際に、提出する本人が持っていた方が円滑に手続をすることができます。また、後で遺産分割協議書を巡って争いになったときに原本があった方が相手が納得して署名捺印したことを証明する手段ともなります。
作成の際には、相続人の人数分作成し、そして全員が所持しましょう。
遺産分割協議書を作成するタイミング
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書の作成をおこないますが、いつまでに作らなければならないのでしょうか。
実は、法律上この時期までに作成しなければならないという決まりはありません。
ただし、遺産分割協議が成立したにもかかわらず、遺産分割協議書の作成をしないでおくと、気が変わって遺産をもっと欲しいと言い出す相続人が現れるかもしれません。
したがって、各相続人の気持ちが変わらないうちに、遺産分割協議が成立したら、直ぐに遺産分割協議書を作成し、相続人全員で署名捺印をしましょう。
そもそも遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で決まった内容がまとめられた書類のことです。
相続では、もし相続人が一人しかいなければ、その相続人が全ての遺産を相続することになりますが、相続人が複数いる場合では、誰がどれぐらいの遺産を相続するのか決めなければなりません。
そこで、誰がどの遺産を相続するのかを決めるために話し合い(遺産分割協議)がおこなわれます。
その遺産分割協議終了後、この遺産分割協議の結果に「相続人全員が合意しています」という、いわば証拠を残すために遺産分割協議書を作成します。
なぜ遺産分割協議書を作成する必要があるのか
ここまで読んできて、なぜ遺産分割協議書をわざわざ作成しなければならないのかと疑問に思う方もいるでしょう。作成した方が良い理由について紹介します。
・起こるかもしれないトラブルを防止するため
遺産分割協議書の作成には、相続人全員の同意が必要です。つまり、遺産分割協議書は、全員が相続の内容に同意した証拠でもあります。
もしも遺産分割協議書を作成していなければ、後になって「同意していない」「もっと遺産が欲しい」と相続人のうちの誰かが言い始めてるかもしれません。せっかく終わったと思っていた遺産分割協議を再び蒸し返されるのはイヤですよね?
遺産分割協議書を作成していれば、全員が同意した証拠が残っているので、そのような言いがかりが起こす隙がなくなり、且つもし言われたとしても、遺産分割協議書をもって対抗することができます。
・遺産分割協議で成立した内容を保存できる
遺産分割は、場合によってはかなり複雑なものとなります。誰がどの遺産を相続して、どう分けて、どのように取得するのか。なかなか頭で記憶しておくことが難しいものです。
遺産分割協議書という書面でその内容を明らかにしておくことで、誰の目に見ても明らかな状態に保つことができ、正確な情報を保つことができます。
・財産取得の手続を進める
遺産分割協議書作成の後にもいくつかおこなわなければならない手続きがある場合もあります。
【不動産の名義変更】法務局へ提出
もし相続財産の中に不動産があるようであれば、遺産分割により取得した不動産の所有権移転登記(名義変更の手続)をおこなわなければなりません。
この移転登記は、不動産所在地を管轄する法務局に対して、申請をおこないます。その申請の際に、遺産分割協議書が必要となります。
【自動車の名義変更】陸運局へ提出
遺産の中に自動車が含まれている場合もあるかと思います。運輸支局に対して名義変更の申請をおこなうのですが、その際、遺産部活協議書の提出が必要となります。
【被相続人名義の預貯金の払い戻し】金融機関へ提出
亡くなった方の預貯金の払い戻しにもこの遺産分割協議書は必要となります。預貯金のある金融機関に遺産分割協議書を提出することで、払い戻しをすることができます。
【相続税の申告】税務署へ提出
相続税の申告においても遺産分割協議書を提出します。
実は、遺産分割協議書を提出せずとも、相続税の申告をすることは可能ですが、その際、法定相続分に応じた相続税を申告することとなってしまいます。実際の相続分が法定相続分より少ないようであれば、一時的にですが必要以上に相続税を納めることになってしまうので、作成した遺産分割協議書を提出した方が良いでしょう。(納め過ぎた税金は遺産分割協議書ができた後で還付を受けることができます)
これらが、遺産分割協議書を作成した方が良い理由です。
遺産分割のやり直しにならないためにも弁護士に依頼しましょう
遺産分割協議書への署名捺印により、正式に遺産分割協議が成立することになります。そして、遺産分割協議は一度成立するとやり直すことは原則できません。
相続人全員が合意をすればやり直しをすることができますが、手間やお金がかかります。どのような手間やどれぐらいのお金がかかるのかについては、「遺産分割協議のやり直しはできるのか?限定されているケースとやり直しの際の注意点」の中で紹介しています。
やり直しをして時間やお金をかけるのを防ぐためにも、遺産分割協議書の作成は慎重におこなわなければなりません。
しかし、遺産分割協議書には複雑な事実が絡んできます。また、不明確な表現では、後でその表現を巡って相続人間でトラブルとなりかねません。
そこで、遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼することも考えてもいいと思います。
弁護士は遺産分割協議書の作成もおこなっています。また、遺産分割協議書作成後のチェックの依頼も受け付けています。
「作成しようとしているが、自分たちだけで作成するのは不安だ」「本当にこの内容で問題ないのか心配」という方は是非とも弁護士にお問い合わせください。
くれぐれも、遺産分割協議書に署名捺印してから相談することのないようにしましょう。
遺産分割協議書に署名捺印してからでは、弁護士が手助けできる余地はほとんど無くなってしまうからです。
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