遺留分

遺留分が兄弟には認められていない?それでも遺産を相続するためにできること

「遺留分は兄弟に対して認められていない」

この事実はあまり知られていないものです。他の相続人同様に、当然に兄弟にも遺留分が認められていると勘違いされている方もいます。

この記事では、兄弟に遺留分が認められていない理由、そして遺留分が認められていない兄弟でも相続できるかもしれないケースについて紹介します。

遺留分と兄弟姉妹に関するご相談事例

相談内容をもとに、ご紹介していきます。

私は兄と2人兄弟です。私たち兄弟2人は両親の死後、実家の家業を引き継ぎ仕事をしてきました。兄弟で営み続け、安定した商売となり、それなりに大きな財産も築き上げています。

しかし先日、兄が亡くなりました。
突然の死だったにも関わらず兄は遺言を遺していましたが、その内容は「全財産を(兄の)妻に相続させる」というものでした。

2人で財をなしてきたため、遺産を受け取れないと考えたことがなかったので非常に驚きました。
ちなみに、兄には妻がいるのみで子供はいません。

本当に遺言通り、兄の妻が全遺産を相続することになるのでしょうか、
「遺留分」という言葉を聞いたことがあるのですが、弟である私も遺産を相続することができるのでしょうか。

こちらの事例をもとに遺留分と被相続人の兄弟について解説していきます。

 

ご相談事例の場合、弟は遺産を相続できません

結論から申しますと、ご相談者は亡くなった兄の遺産を相続することはできません

特別な事情が遺言書の優先度を上回り、亡くなった方の兄弟が遺産を相続するという制度はありません。

ここまで聞いて「あれ、遺留分は認められないの?」と感じた方もいるのではないでしょうか。ここからは兄弟と遺留分の関係について解説していきます。

 

兄弟と遺留分の関係の前に、そもそも「遺留分」とは

まず、遺留分という言葉を初めて聞いたという方に遺留分についての簡単な説明をします。

遺留分とは、相続人に認められた最低限度の相続割合のことを言います。

残された家族が生活に支障をきたすことのないように定められているもので、生前の贈与や遺贈によっても遺留分を侵害することはできないとされています。

もし万が一遺言書の内容が、相続人に認められた遺留分を下回っていた場合には、遺留分減殺請求をすることで侵害分を取り戻すことができます。

遺留分について詳しく知りたいという方はまずは「遺産相続でトラブルが起きやすい「遺留分(いりゅうぶん)」とは?」をお読みください。

 

遺留分は兄弟姉妹には認められていません

実は、この遺留分ですが、亡くなった方の兄弟姉妹には認められていません。

認められているのは「配偶者・子供・両親・祖父母」です。

兄弟とそれ以外の各相続人に認められた遺留分の割合

以下が、各相続人に認められた遺留分の割合です。

遺留分の割合は、基本的に、2分の1で、両親や祖父母といった直系尊属が相続人となる場合のみ3分の1となります。

・配偶者のみ → 配偶者2分の1
・配偶者と子供 → 配偶者2分の1・子供2分の1
・配偶者と父母 → 配偶者6分の2・父母6分の1
・配偶者と兄弟 → 配偶者2分の1
・子供のみ → 子供2分の1
・父母のみ → 父母3分の1
・兄弟のみ → なし

ご覧の通り、兄弟には遺留分は認められていません

つまり、兄弟はどんなに遺言の内容に不満があったとしても、遺留分の権利を主張して遺産を増やすことはできません

 

しかし、兄弟姉妹は法定相続人です

話は変わりますが、亡くなった方の兄弟は、法定相続人には該当します。

下の表を見てください。

第一順位
第二順位 直系尊属(父母や祖父母)
第三順位 兄弟姉妹

これは相続順位とそれに該当する法定相続人が記されたものです。

※ここに「配偶者」がないのは常に相続人となるからです。配偶者は亡くなった方と共同で資産の形成をおこなってきたとされるので、相続欠格や相続放棄の場合を除いてどのような場合においても相続人となります。

第一順位の相続人がいなければ第二順位の直系尊属が相続人になり、第二順位の相続人がいなければ第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。

つまり、子供や直系尊属がいない場合でしか相続人になり得ないですが、兄弟姉妹も立派な「法定相続人」です。

そして、法定相続人でありながら、遺留分権利者(遺留分が認められている相続人)ではないのは、この兄弟姉妹のみです。

では、なぜ兄弟姉妹にのみ遺留分が認められていないのでしょうか。その理由について次に紹介していきます。

 

なぜ兄弟姉妹に遺留分が認められていないのか

遺留分が兄弟に認められていない理由は以下です。

兄弟姉妹は遺留分がなくても生活に支障がでないと考えられているから

兄弟に遺留分が認められていない理由は、他の遺族のように、遺留分を認めないと生活に支障が出るということはないからです。

一般的に、兄弟姉妹以外の相続人である配偶者、子供、両親については、被相続人から扶養を受けるという期待が大きく、全く被相続人の遺産を取得できないとすると、生活に支障が出るおそれがあります。

最初に挙げたご相談事例をもとに説明すると、亡くなった兄の妻は、おそらく弟以上に遺産を頼りにしながら今後の生活をしていかなければなりません。

これに対し、兄弟姉妹は基本的にはそれぞれ独立して生活をしています。お互い依存しながら生活するような兄弟は珍しいでしょう。兄弟姉妹の遺産によって生活を営むことを考えなければならないといった関係にはありません。

そのため、兄弟姉妹には遺留分を認めなくてもよいとされています。

 

それでも兄弟姉妹が遺産を相続できるかもしれないケース

紹介した通り、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

したがって、遺言書が存在する場合、その遺言書の内容に自分の相続分が記されていなければ亡くなった方の遺産を相続することはできません。

それでも、遺産を相続できる方法がないかと気になる方もいるでしょう。そのような方に向けて、最後の望みとしてできることをお伝えします。

最後の望みとしてできること、それは「遺言書の無効を確認・主張する」ということです。

遺言書が無効となれば、遺された遺産について遺産分割協議をおこなうことになります。もしかしたらあなたも遺産を受け取ることができるかもしれません。

無効となる遺言書のチェックリストを用意したので、照らし合わせてみてください。

遺言書の厳格な形式・書式に従っていない

・紙面でなく録音されている
・日付の記載がない
・日付の特定ができない (例. ◯◯年◯月吉日など)
・遺言作成の日でない日付が記載されている
・日付印を用いている
・署名がない
・押印がない
・全部または一部をパソコンやワープロで作成されいている
・全部または一部を他人が書いている
・相続する財産の内容が不明確

法律上、遺言書にはとても大きな影響力を持たせています。そのため、遺言書には大変厳しい形式があります。

上のチェックリストのどれか一つでも該当すれば、その遺言書は無効となります。

遺された遺言書が公正証書遺言の場合であればこのようなミスが発生することはほとんどありません。しかし、遺された遺言書が自筆証書遺言の場合には、このようなことが理由で無効となるケースがあります。

遺言書を遺したものに遺言能力がない

法律は、遺言者(遺言を書いた人)が遺言書を書く時点で遺言能力があることを求めています。この遺言能力とは、遺言の内容事項を理解し、判断する能力のことを言います。

遺言者に認知症や精神疾患などの症状があり、判断能力がない場合には、その遺言が無効となります。

ただし、認知症や精神疾患があったからと言って、遺言書は直ちに無効とされるわけではありません。

あくまでも、認知症や精神疾患によって、判断能力がなかったと、家事調停や遺言無効確認訴訟で認められる場合のみ遺言が無効となります。

以上が、あなたが遺産を受け取ることのできるかもしれない最後の望みです。

ただし、これらは遺言書が無効となっただけで、あなたに対して相続される遺産が確保されたというわけではありません。

先ほども紹介した通り、兄弟姉妹の相続順位は第三順位であり、亡くなった方に子供や直系尊属がいなかった場合にのみ兄弟姉妹が遺産を受け取れる方法です。

 

少しでも遺言書の内容に納得できなければ弁護士に相談を

何度も説明したとおり、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。どれだけ兄または弟が資産形成に貢献していたとしても、関係なく遺留分は存在しません。

遺言書に自分の相続分の指定が書かれていなかった時点で、兄弟の遺産を相続できる可能性はかなり低いですが、紹介した遺言書の無効を主張するというものはかなり困難を調停や訴訟などかなり困難を強いられます。

「遺言書が無効となるケース」をお読みになり「そんなことうちの遺言書にはないだろう」と思われた方もいるかと思いますが、遺言書が無効となるケースはそれほど珍しいものではありません。ぜひとも確認してみることをおすすめします。

今回のように、遺言書の内容に納得できなければ、一度は弁護士に相談してみるべきです

もしかしたら、あなたが相続できるように、もしくは相続分が増えるように、努めてくれるかもしれません

なお、本件では、相続や遺留分の問題として考えると、取り分はないということになりますが、共同事業における精算や承継の問題として、弟が事業に対する権利を主張することは可能な場合があります。

「遺留分減殺請求は弁護士に依頼すべき」このように言われている理由は「遺留分減殺請求を弁護士に相談した方が良い”7つ”の理由」を読めばわかります。


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代表弁護士:高島秀行

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